
ガスコーニュ人は、血気さかんで意地っぱり。よくいえば個人主義者だが、要するに頑固者。
その代表は、『三銃士』の主人公ダルタニャンだ。この19世紀最大のベストセラーには、ガスコーニュの田舎からほとんど無一文でパリに出てきたダルタニャンが、アトス、アラミス、ボルトスという三人の近衛銃士と出会い、彼らと堅い友情で結ばれつつ、戦乱と陰謀のうず巻くルイ13世治下の17世紀を生き抜いて、次第に出世していく姿が生き生きと描き出されている。
ダルタニャンは実在の人物でガスコーニュ生まれ。軍人として活躍もしている。ただし、作者であるアレクサンドル・デユマは、史実をふまえつつも、自由に想像力を働かせ、波瀾万丈の物語を紡ぎ出している。
もともとフオワグラやジビエに恵まれたガスコーニュには質実剛健な食の伝統がある。そして、作者のデユマも『料理大辞典』(岩波書店)を著したほどの大食漢だから、この小説には飲み食いの場面が多い。なかでも、四人の銃士がわざわざ敵陣の目前まででかけていって繰り広げる朝食の場面は危険をものともしないその豪胆な男気質(かだぎ)でまことにガスコーニュ的だ。
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さて、敵前での朝食は成功裡に終わる。そのような侠気(おとこぎ)たっぶりの行動をとる四人の銃士たちだが、 冷静沈着なアトス、好人物にして豪放なポルトス、詩人肌のアラミス、そして血気盛んな情熱の人ダルタニャンとガスコーニュ気質も千差万別、なかなか個性的である。そんなガスコーニュ気質を映したかのように、おおむね強い味わいのこの地方のワインにもはっきりした個性を持ったものが多い。
福田育弘著 「ワインと書物でフランスめぐり」の一節である。
一寸「お堅い」ように見える題名だが、どうしてどうして、中身は、良質な旅行記を読んでいるような気軽さで、フランス文化とワインを語ってくれている。飲むワインに一味もニ味も付け加えてくれる異色のワインブックである。
「ワインと書物でフランスめぐり」
国書刊行会
著者:福田育弘
1955年名古屋生まれ、早大文学部仏文科卒、1985~88年仏政府給費留学生としてパリ第3大学に学ぶ、現在、早大教育学部教授。専門は20世紀フランス文学。ワインに関するエッセー多数。
