
アゼ・ル・リドー
財務官の妻の館
アゼ・ル・リドーの城は、ロワール河の支流のアンドル川の中洲に建っている。
バルザックは、「風流滑稽譚」に書いている。
「美しいトゥレーヌに於いても、この城などは最も美しい、雅な、愛くるしい、凝ったお城の一つで、離れ屋や、薄紗の窟や、兵隊は皆さうだが、風のまにまに廻る風見のついた可愛らしい兵隊人形などに飾られて、公侯の想ひ女といった優姿を、今も昔に変らずアンドルの河波に洗はせている」と。
この華麗な城館は、16世紀の前期、トゥール市長で、フランソワ1世の財務官だったジル・ベルトロによって築かれた。
彼の妻フイリップ・レスバイが、工事の実際は指揮したから、全体に女性的な優雅さが漂っている。様式はゴシックからルネッサンスヘの過渡期を示している。
本来は防禦用の装備である四隅の円塔や銃眼なども単なる装飾となっている。堀に映る姿が特に美しく「ロワールの真珠」と呼ばれている。
華麗な城館がほぼ完成に近づいた頃、ベルトロー同様国王の財務官をしていた従兄弟サンプランセが公金横領の疑いで逮捕され、有罪の判決を受けて縛り首にされたのだった。
その頃の徴税方法が徴税人の裁量によるところ多分にあったから、私腹を肥やすことがまかり通っていた。国王の信頼という後ろ盾を失えば、直ちに失脚。私財蓄えの罪で断罪されるのも常だった。
ベルトローは、従兄弟サンプランセ同様、いやそれ以上の私腹を肥やしていたから、身の危険を感じ、せっかく出来上がりかけていた城館も何もかも捨てて、当時はまだフランス領ではなかったメッスに亡命した。
サンブランセやベルトローから借金をしていた貴族たちは、少なくなかったから、借金が棒引きになる彼の逃亡を喜んだに違いない。