フランスワイン事典
Introduction
テロワール 品種ブドウ栽培醸造・熟成AOCワイン 歴史ラベルの読み方Vintage保守とサーヴィス
ワイン文化とイスラム

本-ワイン文化史

以下は、『ワインの文化史』の訳者八木尚子氏の「訳者あとがき」の一節である。

「少し前になるが、正餐の席でワインを出す、出さないでもめた末、イランのハタミ大統領の訪仏が中止されたことがあった。 飲酒を禁じるイスラムの教え通りにワイン抜きの食事を求めるイラン側に対して、フランス側はワインの不在に耐えうる軽い食事を提案するという前例のない譲歩を示したが、イラン側が正餐を主張して譲らず、物別れに終わったという。
あっぱれ筋金入りのフランス外交と舌を巻く一方で、世界一のワイン大国とはいえ、なにゆえワインにそこまでこだわるのかという疑問が頭をよぎったのも確かだった。

19世紀初頭、フランスの外相タレーランは、「閣下、面倒な書き付けや訓令より私に必要なものは鍋(キャスロル)でございます」とルイ18世に上申し、稀代の名料理長アントナン・カレームを伴ってウィーン会議に乗り込んだという。美食外交はフランスの十八番である。
それにしても単なる食べ物ではないか。我々はついそう思う。グラス一杯のワインに国の威信をかけるというのか。答えは然りである。本書を読んでいただけば、その理由はお分かりになるだろう。

中世以来この国では、賓客をもてなすのにワインは不可欠だった。そして、2000年を超える時の中で育まれたフランスワインには、その社会、政治、経済、農業、芸術、文化の足跡が刻まれ、そこに生きた人々の歓喜、苦渋、悲哀がにじんでいる。それを否定されることは、自国と国民を、そのアイデンティティを否定されるに等しい。ワインはフランスの重要輸出品目として、その文化を伝えるものとして、世界中に送り出されている。しかし、フランス人とフランス共和国にとってワインとはいかなる存在なのか、それが充分理解されているとはいいがたい。・・・・・・・・・・・・・・・」

近年、新大陸のワインの品質向上は目覚しい。しかし、巾の広さと奥深さの点では、まだまだフランスワインには遠く及ばない。フランスワインをより深く味わわせてくれる本の一つである。

ワインの文化史
筑摩書房
著者:Gilbert Garrier(ジルベール・ガりエ)
訳者:八木尚子

八木尚子(やぎ・なおこ)
大阪市立大学文学部西洋文学科卒。辻調理師専門学校グループ・辻静雄料理教育研究所主任研究員。訳書に『ワインの文化史』(白水社文庫クセジュ)。共訳書に『香辛料の世界史』(白水社文庫クセジュ)、『ヒュー・ジョンソンの楽しいワイン』(文春文庫)、『ポケット・ワイン・ブック』(早川書房)、『新ラルース料理大事典』(同朋舎)。

Gilbert Garrier(ジルベール・ガりエ)
1935年生。リヨン第2大学名誉教授。社会経済史、農村史、地方史などの幅広い分野の著作があり、中でもブドウ栽培とワインの歴史の研究に力を注いできた。
『19世紀のボジョレ地方のブドウ栽培老』1985年、『フィロクセラ』1988年、『歴史家たちのワイン』1989年、『高品質ワインの生成過程-フランスとイタリア(18~20世紀)』1994年、などを著している。

 

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