フランスワイン事典
Introduction
テロワール 品種ブドウ栽培醸造・熟成AOCワイン 歴史ラベルの読み方Vintage保守とサーヴィス

◆ Column 「ワインと日本酒」 ◆

共に醸造酒だが、原料の米(穀物)と葡萄(果実)の違いが、酒質だけでなく文化の違いにも現れている。つまり、 日本酒の場合、原料の米が穀物故に、保存と輸送は時間的にも距離的にも比較的容易で、生産において、その原料産地に縛られることは少ない。
しかし、ワインの場合は、原料の葡萄は、新鮮で健全で充分成熟した葡萄果を迅速に摘み取り、可能なかぎり迅速に破砕し、その果汁を旺盛な発酵に遅滞無く導かなければならない。時間的にも距離的にも、大きく原料産地に縛られる。

日本酒は、原料の酒米の種類は、山田錦がほとんどで、「一麹、ニ酛(もと)、三造り」と言われ、酒質を左右する要素は人為的な部分が大きい。かっては、東北の酒は「寒仕込み」等と呼ばれ、自然条件が大きく酒質に関わる部分があった。が、今日では空調設備は容易だから、何処でも「毎日が寒仕込み」と言える。 つまり、日本酒は「工業製品」と言ってもいい。

それに比べ、ワインは原料の品種の多彩さに加え、人為では如何ともし難い栽培地の気象、地質、地形などの自然条件が大きく酒質や品質に関わり、人為の部分の醸造技術も、地域によって引き継がれた伝統の違いが大きい。言ってみれば、ワインは地域性を色濃く持つ「農業製品」。

日本酒の発酵には、発酵前に澱粉を分解する<糖化の工程>が必要だが、ワインの製造工程は単純で、葡萄を潰しさえすれば、自然に発酵する(名醸ワインは、自然に付着した野生酵母による自然発酵)。と言うことは、良い収穫は、良いワインの誕生を約束している、葡萄を潰して仕込み樽へ受けるだけで、生まれてくるワインの前祝が出来、酒造り(仕込み)そのものが陽気な祭りになる。それに引き換え、日本酒は、かっては、仕込みそのものがリスクの多い仕事であったから、酒造りは敬虔な祈りから始まる。祭りは新酒誕生の後である。

ヴィンテージ・チャートが、ワインだけにあるのは、こんなことも教えてくれる。

本-比較ワイン文化考

「比較ワイン文化考」 中公新書

西欧の食文化に根ざしたワインは、日本人のイメージにある「酒」とは異質なものである。ワインはワインであって、酒ではない。この認識は日本の風土からは生まれてこない。
長年に渡る醸造現場での経験と豊かな教養が語る異色のワイン・ブック。

著者: 麻井 宇介 (あさい うすけ)
1930年東京生まれ、東京工業大学卒。メルシャン(株)のワイナリーや工場長を勤める。現在、酒造技術コンサルタント。
著書:「日本のワイン・誕生と揺籃時代」-日本経済評論社、「ワインづくりの四季」-東京書房、「論集・酒と飲酒の文化」-平凡社、「ワインづくりの思想」-中公新書、外多数。

 

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